「手刻み」とは大工の技量を問われる「墨付け」を行い、捩れ、曲がり、歪みを調整し、付けた墨に沿って大工が手で刻んでいく技法です。この技法の特徴をご紹介します。

木造住宅にとって、その構造体を成す木ほど大事なものはありません。しかし同時に、良質な木を使うだけで良い家になるというわけでもないのです。木には様々な種類があるだけでなく、それぞれが異なった 特性をもっており、それを知っているかどうかが良い家づくりの一歩となります。
例えば木の節。節自体にも種類があり、「死に節」と呼ばれるものは、その周囲と密着していないため、板などに加工したときに抜けてしまうことがあります。
反対に「生き節」は周囲と一体化しているため、節が抜け落ちることなく、見た目の美しさや強度を保つことができます。
また、同様に大切なのが、木のクセ。木材は、生育した環境など様々な理由で、反ったり割れたり、またねじれることもあります。こうした木の特性を知っていることが良い家づくりの条件であり、また良い大工の条件でもあるのです。
木には日当たりによって背(日当たりが 良かった方)と腹(日当たりが悪かった方)があり、背の方向に反るという特性があります。そのため、例えば柱を立てるときには背側を室内に向け、腹を外に向けるのが常道。天井を組むときには背側を上に、腹側を下に向ける。こうすることで、地震などの自然災害にも強い家になるのです。
また、木と木をつなぎ合わせる際には、 噛み合う部分の側面を叩いておく。これは「木殺し」と呼ばれる作業で、組み合わせた後に木殺しをした部分に水をかけておくと、叩いた部分が膨張して仕口がより締まり、強度が増していきます。このように、木の特性を知った上で組み上げられた構造体は強度を誇り、長く住み継いでいける家になるのです。
「リフォームしようと思ったが、『構造が分からない』と言われて建て直すことにした」というのはよく聞く話。
しかし、構造や工法に関しての知識をもった大工、すなわち墨付けや手刻みのできる大工なら、伝統的な工法で建てられた家でもリフォームが可能です。もちろん、新築で建てる家も同様。しっかりした大工技術をもって建てられた家は、年月を経て老朽化したとしても、知識と技術をもった大工なら誰が見てもリフォームは可能。なぜなら、伝統的な工法や大工の技術は、古来より不変のものであるから。だからこそ、大工の技術と知識を継承していくことが大切なのです。

昔のように、木だけで組み上げる家というのは、現代では少ないのは事実。それでも「環境に良い」と言えるのは、木材を効率的に使用するから。「歩留まりが良い」という言葉を聞いたことがありますか?これはつまり、無駄を出さないということ。熟練の大工であれば、設計図を見た段階で、「どこに、どれだけの長さの木が必要か」ということが判断できるため、必要なだけの木材を使って家を建てることができ、廃棄処分となる資材を少なくすることができるのです。

手刻みによる家づくりのスタートラインは、墨付けと呼ばれる大工自身が加工前に木に印を付ける作業。この印をもとに一箇所一箇所を丁寧に刻み、組み上げていくのが手刻みの家づくりです。当然、手間も暇もかかりますが、それ故に、大工に責任感が芽生えるのもまた事実。ありったけの自身の技術と情熱を注ぎ込んだ家が、良い家にならないわけがない。家づくりとは、施主にとっての思い入れと同時に、大工にとっても万感の思いが込められているものです。

昨今では、建材開発の技術革新や建築技 法の進歩などによる家づくりの機械化が進み、その結果、伝統的な大工技術を継承する家づくりの場が減少しているのが現状。しかし、忘れてはならないのが、徳島県産の木材を使い、優しく、温かく家族を見守る家づくり。そのためには大工職人の技術は不可欠で、技術をそして魂を後世に伝え残していくことが大切なのです。

県土の大半を山林が占める徳島県では、古来より、地の木材を使った家づくりが盛んに行われてきました。自然素材を使い、優しく、温かく家族を見守る家づくりが行われてきたのです。そうした中には、文化的な価値を持つ家がたくさんあり、定期的なメンテナンスや、時にはリフォームを行って、そうした家々を財産として遺していく必要があるのではないでしょうか。

その土地で育った木は、その土地でこそ長生きするもの。同時に、きちんと建てられた家には大工職人の知恵と魂が宿っており、自然災害にも強い家になっています。「建てては壊す」という、環境に悪影響を及ぼす家づくりはやめて、何代も住み継いでいけるような家づくりは、施主や地域に心の豊かさを提供していきます。

■徳島県木造住宅協会について ■協会員一覧 ■『地山地匠』あわの家 ■よくあるお問い合わせ ■お問い合わせ